適応疾患

私たちの体は、外部の変化に体調をあわせて、健康を維持しようとします。これを恒常性と言います。

例えば、体温は36~37度であり、常に一定です。同じように臓器のはたらきにも、それぞれ恒常性があり、私たちは健康でいられるのです。つまり、この恒常性を保てない状態が病気と言えるでしょう。病気が治るのは、私たちの体に自然治癒力があり、正しい状態に引き戻す力があるためです。

しかし、外部からの影響や内部の変化が大きい場合、病的な状態から抜け出せないこともあります。このようなときには、鍼灸治療によって自然治癒力を高めてやることもひとつの方法です。

WHO(世界保健機関)は1979年に、臨床経験に基づく鍼の適応疾患を挙げています。

運動器系

骨量は年齢とともに減少していきます。女性は男性よりも骨量の減少が大きく、より深刻な深刻な問題を引き起こします。

また、関節軟骨が薄くなり、靭帯の委縮、柔軟性も減少。80歳頃までには、膝関節、肘関節、股関節、肩関節にある種の変性が起き、神経を圧迫する原因になります。骨量の減少は痛みや関節の硬直につながります。

日常生活で同じ作業を繰り返し続けると、知らない間に運動選手たちがよく経験する、使いすぎ症候群と同じ障害が出やすいので、早めの治療が大切です。

主な適応疾患

肩こり 五十肩 寝違え 背中の張り テニス肘 腱鞘炎 手足のしびれ ぎっくり腰 腰痛 坐骨神経痛 頭痛 片頭痛 膝関節痛 こむら返り 肋間神経痛 顔面神経麻痺 三叉神経痛 リウマチ性関節炎

呼吸器系

高齢になるほど、気管や気管支、肺胞を含めて弾力性を失います。同様に、肋骨の筋肉も固くなり、結果として肺活量も減少してきます。肺活量は70歳までに35%も減少してしまうのです。

さらに血液中の酸素含有量の低下により、免疫細胞の活動が弱まり、細菌感染しやすくなります。これらの変化により、高齢者は肺炎、気管支炎、肺気腫その他の肺疾患にかかりやすくなるため、注意が必要です。

主な適応疾患

喘息 気管支炎 風邪及び予防

循環器系

動脈疾患を予防するため、心臓と動脈の健康を考えたライフスタイルを確立することが重要です。

禁煙、定期的運動(歩行などの運動を毎日30分)心臓の健康に良い食事などが挙げられます。食事は脂肪の摂取を控え、穀物、野菜などの植物性食材を多く取ることです。

これらは肥満、血中脂質、血圧低下に効果的であり、糖尿病改善にも役立ちます。また、必要以上にストレスを溜め込まないようにして、動脈疾患を積極的に予防しましょう。

主な適応疾患

動悸・息切れ 冷え性 むくみ 貧血 高血圧低血圧症 動脈硬化症

消化器系

食物繊維を多く含むたべものは肥満、糖尿病、動脈硬化、痔、虫垂炎、大腸がんを予防してくれます。しかし、動物性脂肪の取り過ぎにより、胃がんの減少とは逆に大腸がんは増加し続けています。

味覚が発達する9歳頃までにハンバーグ、ラーメンといったファーストフードの過剰摂取が原因とも言えます。消化器系は体のエネルギーを生み出す基になるものです。バランスの取れた食事を心がけ、消化管の老廃物排泄を助けてあげましょう。

主な適応疾患

胃もたれ 胃下垂 急性・慢性胃炎 胃酸過多症 急性・慢性十二指腸潰瘍 便秘・下痢

婦人科系

東洋医学的な観点からみると、婦人科系の症状は「腎」が大きく関わります。女性は「7」の倍数を区切りとして成長し、衰退していきます。箇条書きにすると・・・

7歳腎の働きが活発になり、歯が生え変わり髪も長くなる。
14歳月経が始まり、出産可能。
21歳腎気は充実し、体格は頂点に達する。
28歳筋骨充実、毛髪は最も長く豊かになり、身体も盛壮。
35歳顔色が衰え始め、髪が抜け始める。
42歳内臓の機能が衰え、白髪が多くなる。
49歳閉経期に入り、子供が作れなくなる。

更年期障害等の女性疾患は49歳前後から起こり易くなります。ちょうど、エストロゲン(女性ホルモン)の減少時期と腎機能の低下は一致しています。

以上のように女性の場合、「腎」の機能とエストロゲンの分泌は類似し、腎の働きが弱るといろいろな不定愁訴を発症します。したがって、治療に際しては「腎虚」に対する配慮が必要です。

主な適応疾患

更年期障害 生理痛 月経不順 不妊症 さかご 乳腺炎

小児科系

アレルギー疾患も以前より格段に多くなりました。

近年、私たちの生活様式は変化し、小児の体質が変化したのも原因の一つです。季節外れの食品、胃腸を冷やしやすい食品、過剰な糖分摂取が内臓の負担を高めます。

小児は免疫力が高いので、主に体質改善の治療をおこないます。はりによる刺入はせず、ローラー鍼やいちょう鍼による接触鍼中心の治療です。

主な適応疾患

夜泣き かんむし 小児喘息 アレルギー性湿疹 夜尿症

泌尿器系

年齢とともに腎臓の大きさは縮小し、ろ過する血液量も低下します。

両側の腎臓の重さは20歳で平均260gですが、80歳を過ぎると200g以下になります。いかに小さくなるかがわかりますね。一般に高齢者はのどの渇きを感じにくく、容易に脱水するので、こまめな水分補給は冬でも必要です。

夜間、トイレに行くのが億劫になるため、お茶等の水分摂取を控えがちになりますが、泌尿器の感染予防に水分摂取は欠かせません。尿量減少が泌尿器感染の原因になっていることもあります。

主な適応疾患

頻尿・残尿感 尿失禁・尿漏れ 膀胱炎 前立腺炎 尿道炎

皮膚科系

便利な生活で冷暖房のない家庭は少なくなりました。「暑い」と言っては冷房し、「寒い」と言っては暖房します。

このため、私たちの皮膚は温度変化に対応するのが難しく、様々な皮膚病の原因となるのも当然でしょう。現代の生活環境は皮膚の免疫力を低下させています。

主な適応疾患

じんましん 脱毛症 アトピー性皮膚炎

眼科系

全身の経絡(けいらく・つぼの流れのことです)は頭部に行き、眼の周囲に集まっています。

直接頭部に達していなくても、眼に関係する経絡を使うこともあります。例えば、「肝」の経絡です。この意味で「肝」と眼とは特に深く関係しています。

眼は小さな臓器ですが、眼の異常を体全体の問題と捉えて治療していきます。

主な適応疾患

眼精疲労 ものもらい 白内障 急性結膜炎

耳鼻咽喉科系

耳鼻咽喉の疾患はさまざまな原因により生じ、症状も多様です。

また、ストレスや精神的・肉体的な疲れがあると症状がひどくなり、それが不安や不眠につながります。感情の変動が引き金となり、症状を悪化させている場合もあります。自分で原因を思い浮かべてみるのも一つの治療法です。

主な適応疾患

難聴・めまい 耳鳴り 花粉症 メニエール病 乗り物酔い 鼻炎・扁桃炎 歯痛 口内炎

その他

主な適応疾患

自律神経失調症 肥満 慢性疲労性症候群 術後疼痛 生活習慣病予防